コロナ時代の新たな歯科システムをCoronavirus

  • 2020年5月29日

    (一社)日本歯科医学会連合
    新型コロナウイルス感染症対策チーム

    《 新機軸 ―歯科における感染予防― その1 》

    新型コロナウイルス感染拡大防止に対して、より一層の新たな取り組みを社会全体そして一人一人が行うことが重要です。
    歯科診療においては標準予防策の徹底に加え、各診療環境に応じた院内感染予防策の工夫などによる環境整備を行い、そして新たな感染予防習慣を長期的に継続していく取り組みが有効と考えます。
    これまで、日本歯科医学会連合では、「歯科診療における新型コロナウイルス感染症に対する留意点(第1、2、3報)」についての情報を発信してきました。
    緊急事態宣言解除に伴い、社会では「出口戦略」などの言葉のもとに新たな希望と方向性が求められ始められています。歯科医療においても、これまでの院内感染で注意すべき病原体(HBV、HCV、HIV、流行性疾患ウイルス、多剤耐性菌など)への対応を中心とした感染予防概念のスタンダードプリコーション(標準予防策)から、パンデミックに対応する新たな院内感染予防対策のシステムを作ることが必要です。どのような状況下においても安全に歯科診療提供ができるシステムの構築です。
     そこで、日本歯科医学会連合の新型コロナウイルス感染症対策チームでは、今後の院内感染予防システムを提言するために、「コロナ時代の新たな歯科システムを」のコーナーを設置いたしました。私たちは、「出口戦略」というよりも新たな歯科医療環境への「入口戦略」ととらえ取り組んでまいります。
    テーマは、新たな習慣、新たな工夫です。

    歯科診療所における新型コロナウイルス感染予防について

    目次:


    Ⅰ 歯科医療従事者のための新型コロナウイルス感染症についての基礎知識

    感染成立の3つの因子1)

    感染は、病原体(感染源)、感染経路および宿主の 3つの因子があって成立します。 そのため、感染対策の三原則として以下の3つが挙げられます。

    1.病原体(感染源)の除去
    2.感染経路の遮断
    3.宿主の抵抗力増強

    具体的には、病原微生物の感染源確認の有無にかかわらず、血液、体液、分泌物、嘔吐物、排泄物、傷のある皮膚、そして粘膜が感染する危険性があるという考えに基づき、「標準予防策(スタンダード・プリコーション)」や「感染経路別予防策」と呼ばれる基本的な措置の検討が重要となります。

    1.病原体(感染源)の除去

    感染症の原因となる微生物(細菌、ウイルスなど)を含んでいるものを 病原体(感染源)といい、次のものは病原体(感染源)となる可能性があります。
    ① 嘔吐物、排泄物(便・尿等)、創傷皮膚、粘膜など
    ② 血液、体液、分泌物(喀痰・膿など)
    ③ 使用した器具・器材(注射針・ガーゼなど)
    ④ 上記に触れた手指

    2.感染経路の遮断2)

    感染経路には、接触感染、飛沫感染、空気感染、および血液媒介感染などがあります。
    (下記に感染経路、特徴、主な原因微生物を示します))

    接触感染 (経口感染含む):
    手指・食品・器具を介して伝播する頻度の高い伝播経路
    ノロウイルス※ 腸管出血性大腸菌 メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA) など

    飛沫感染 :
    咳、くしゃみ、会話などで、飛沫粒子 (5μm以上)により伝播
    1m 以内に床に落下し、空中を浮遊し続けることはない
    インフルエンザウイルス※ ムンプスウイルス 風しんウイルス など

    空気感染 :
    咳、くしゃみなどで飛沫核 (5μm未満)として伝播し、空中に浮遊し、空気の流れにより 飛散
    結核菌、麻しんウイルス、水痘ウイルスなど

    血液媒介感染 :
    病原体に汚染された血液や体液、分泌物が、針刺しなどにより体内に入ることにより感染
    B 型肝炎ウイルス、 C 型肝炎ウイルスなど
    ※インフルエンザウイルスは、接触感染により感染する場合がある
    ※ノロウイルス、インフルエンザウイルスは、空気感染の可能性が報告されている

    3.宿主抵抗力の向上

    免疫の低下が感染の重症化に関係すると言われています。宿主の抵抗力を向上させるには、日ごろから十分な栄養と睡眠なども含めた健康管理が重要となります。
    また、ワクチン接種は感染予防に有効な手段ですが、現時点では新型コロナウイルスに対するワクチンは開発中であり、まだ臨床現場には登場していません。

    ・新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)について
    潜伏期間1~12.5日(5~6日が多い)3)
    エンベロープ有する
    環境表面における
    生存時間
    印刷物・紙3時間、
    プラスチック・ステンレス72時間とも言われている4)

    標準予防策(スタンダード・プリコーション)

    感染対策の基本となるのは、標準予防策(Standard Precautions;スタンダード・プリコーション)と感染経路別予防策です。 標準予防策とは1985年に米国 CDC(国立疾病予防センター)が病院感染対策のガイドラインとして、ユニバーサル・プリコーション(Universal Precautions、一般予防策)を提唱しました。これは、患者の血液、体液、分泌物、嘔吐物、排泄物、創傷 皮膚、粘膜血液は感染の危険性があるため、その接触をコントロールすることを目的としたものでした。その後、1996年に、これを拡大し整理した予防策が標準予防策です5)。 「すべての患者のすべての湿性生体物質:血液、体液、分泌物、嘔吐物、排泄物、創傷皮膚、粘膜等は、感染性があるものとして取り扱わなければならない」という考え方を基本としています。

    患者さんの不安への対応

    新型コロナウイルス感染の恐怖を感じている人は多くいらっしゃいます。医療機関においては適切な院内感染対策を講じるとともに、不安を持つ患者さんへの精神的配慮も大切な対応と考えます。患者さんの不安と向かい合うためには、歯科医師をはじめとする歯科医療従事者が新型コロナウイルス感染症対策の基本的な知識を正しく理解することが大切です。


    Ⅱ 歯科診療に関する留意点

    標準予防策の遵守、患者さんごとの環境消毒の配慮、それぞれの診療室環境に応じた感染予防の工夫により、院内感染対策の向上を図ることが大切です。

    エアロゾル感染の概念

    「エアロゾル」の定義は国により異なる部分がありますが、「気体中に浮遊する微小な液体または固体の粒子」を指します。
    「(公社)日本医師会 新型コロナウイルス感染症外来診療ガイド」6)では「飛沫感染と接触感染が主な感染経路だがこれだけでは説明できないのが、マイクロ飛沫やエアロゾルと呼ばれるウイルスを含むごく小さな水滴からの感染である。換気のできない部屋では3時間以上も空中に浮遊し、感染の原因となりうる。また、家具や医療機器の汚染の原因となり、エアコンでこれが拡散されると普通の飛沫では届かない距離にいるヒトに感染する可能性がある。」と説明しています。

    診療室内のエアロゾル対策:吸引装置の適正使用

    患者さんの口から放出される液滴とエアロゾルの分散を防ぐために、口腔内での歯科用バキュームの確実、的確な操作が求められます。
    また、口腔外バキューム(口腔外吸引装置)の活用も望ましいです。 
    エアタービン、ハンドピース、超音波スケーラーなどの使用時に放出される水量について意識を向け、始業点検時、診療時などこまめにチェック、調整をする習慣をつけましょう。適正な水量調整により飛沫を最小限に押さえることも大切です。
    関連事項として、治療中における飛沫防止のためラバーダムを活用しましょう。

    手袋、ゴーグルまたはフェイスシールドについて

    手袋は患者さんごとに交換します。
    治療前後(手袋の装着前後)には、手指衛生(手洗い、手指消毒)を徹底します。
    手袋のリーク率、つまり同一操作を行った後の穴あきや破損などは、ラテックス手袋では0〜4%、ニトリル手袋が1~3%と低いのに対し、ビニール手袋では26〜61%と高いことも報告されています。そこで、手袋を外したあとには、必ず手指消毒を行う必要があります7)
    エアロゾルへの対策としてこれらの装着が必要となります。新型コロナウイルスは、口、鼻、目の粘膜から侵入してきます。眼への曝露の可能性もあるため、眼鏡ではなく、ゴーグルまたはフェイスシールドを装着することが必要です8)
    手袋などの個人防護具を外す際には、それらにより環境を汚染しないよう留意しながら外し、所定の場所に廃棄します9)

    歯科用ユニット、周囲、その他接触部位の消毒

    新型コロナウイルスは、エンベロープを有するためアルコールにより不活化します。また、環境消毒には次亜塩素酸ナトリウム水溶液も用いることができます。有効性を高めるために アルコールは60%以上、次亜塩素酸ナトリウム水溶液は0.05%の濃度が推奨されています10)11)
    ドアノブなど患者が触れた部位および触れた可能性のある高頻度接触部位に対しては、抗ウイルス作用のある消毒剤を含有させたクロスを用いての清拭が有効です。
    次亜塩素酸ナトリウム水溶液は、ユニット内部や設備品に錆が生じて故障の原因になることもあるので、水拭きをすることも大切です。また、食品用ラップやアルミホイルを利用して治療時の接触部位にラッピングを行うことも有効とされています。
    ユニット周りだけでなく、レセプトコンピューターなどの周辺機器も清拭しましょう。
    トイレについても、使用ごとに(使用ごとが難しい場合は定期に)ドアノブ、便座、流しハンドルなどを清拭しましょう。そのためには、使用を把握できるような「声掛け表示」なども役立ちます。
    そして、環境消毒を行うスタッフは、グローブ、マスク、ゴーグルを着用するようにしましょう。

    印象材、技工物等の消毒12)

    アルジネート印象材はラバー系印象材よりも口腔内微生物が付着しやすく、アルジネート印象材では、120秒以上、シリコーン印象材で30秒以上の水洗が推奨されています。
    アルジネート印象材に付着した微生物は、印象材から石膏模型に容易に伝播しますので、石膏を注入する前に消毒することが勧められています。
    0.1~1.0%次亜塩素酸ナトリウム溶液で15~30分、2~3.5%グルタラール(グルタルアルデヒド)溶液で30~60分浸漬する方法があります。
    完成した技工物の消毒には、逆性石けんによる洗浄、次亜塩素酸系消毒薬への浸漬、エタノールによる清拭・噴霧、紫外線照射などの方法があります。

    X線撮影について

    嘔吐反射の強い患者、喘息や呼吸器疾患がある患者など、咳やむせなどの飛沫が発生するリスクが高いと考えられる患者については、口内撮影法を避け、可能な場合は口外撮影法を検討することも必要と考えます1)

    患者さんの健康管理(体調、体温、味覚・嗅覚の異常など)

    診療の際に、体調、味覚・嗅覚の異常の有無について尋ねることと体温チェックは、新型コロナウイルス感染症対策として、感染者を見つけ出すのに有効と考えます。体温については、平熱より1℃以上の体温上昇を発熱ととらえます。
    ※参考:新型コロナウイルス感染症を疑う症状(「医療機関における新型コロナウイルス感染症への対応ガイド 第3版」一般社団法人日本環境感染学会より)
    発熱、咳、呼吸困難、全身倦怠感、咽頭痛、鼻汁・鼻閉、味覚・嗅覚障害、眼の痛みや結膜の充血、頭痛、関節・筋肉痛、下痢、嘔気・嘔吐など

    治療前後の含嗽(口、喉のうがい)

    治療前の感染予防として、まずは、患者さんに治療開始前に消毒薬で含嗽してもらい、口腔内の微生物数レベルを下げることも飛沫感染対策として、診療室の環境を清潔に保つための簡便な手段とされています。また、治療後における含嗽もユニット内で完結できる環境整備に有効と思われます。
    消毒薬としては、ポビドンヨード、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、クロルヘキシジンなどが挙げられます1)。ただし、クロルヘキシジンは、わが国では粘膜での使用でアナフィラキシーショックの事例が報告されていることから、含嗽剤としては0.05%にとどめられています。


    Ⅲ 診療環境に関する留意点

    新型コロナウイルス感染症においては、標準予防策に加え、3つの密への対策が重要なポイントとなります。つまり、密閉、密集、密接により感染拡大が起きるというものです。

    「密集・密接」の回避

    待合室密集回避のため、診療内容の把握し、診療スケジュールを調整して可能な限り予約間隔や使⽤ユニットの調整の検討を行いましょう。
    患者さんには予約時間遵守をお願いし、待合室の⼈数をできる限り少なくして「密集、密接」を回避しましょう。

    「密閉」の回避:換気

    定期的な窓開けなどによる換気を徹底しましょう。(「密閉」の回避)
    SARSの際に、海外の報告において、空調のある設備の整った病院より、窓を開け放っていた公立病院のほうが院内感染率が低かったとの報告もあり、換気の重要性が指摘されています13)

    「接触感染」予防への配慮

    待合室・診療室の遊具などを撤去しましょう。
    待合室・診療室の雑誌、本など消毒が困難なものは置かないようにしましょう。

    受付環境(サージカルマスクの装着)

    受付においても、患者さんとの会話における飛沫感染予防として、常時、サージカルマスクの装着が必要と考です。
    患者さんに対しては、治療行為以外の時間は原則的にユニット着席時においてもマスクの装着をしてもらうことが、飛沫感染の予防につながります。(密接での会話などへの対応)
    緊急事態宣言解除後、当分の間は、上記のような習慣も感染予防対策として有効と考えられます。
    他職業において実施されている受付におけるビニールシートやアクリル板パーテーションなどによる遮蔽も適切に設置した場合は効果的であると考えられますが、遮蔽内部の換気状態が悪い環境においては注意が必要です14)

    手指消毒の徹底

    患者さん来院時の手洗い、手指消毒も大切です。玄関入口に手指消毒剤の設置をしましょう。


    Ⅳ スタッフに関する留意点

    体調管理

    ⻭科医療従事者が感染源とならないために、職員の健康管理が大切です。
    毎日欠かさず体温を計ること(朝、夜)、またそれを報告するシステム構築も有効です。
    倦怠感などの症状があれば責任者に報告、相談の上、状態により自宅待機を考慮に入れましょう。

    医局(スタッフルームなど)内での注意事項

    院内クラスター発生を予防するために、それぞれの診療所に応じた対策が大切です。
    対面での食事は注意が必要です
    密接状態での会話
    適切な診療着の着脱や交換管理
    診療室、待合室のみでなく医局(スタッフルームなど)における換気にも注意


    V 参考文献

    • 1)日本歯科医学会監修:「エビデンスに基づく一般歯科診療における院内感染対策 実践マニュアル 改訂版」,第1版,永末書店,京都、2015年.
    • 2)厚生労働省:高齢者介護施設における感染対策マニュアル改定版,2019年3月.
    • 3)厚生労働省:高齢者介護施設における感染対策マニュアル改定版,2020年2月17日.
    • 4)Neeltje van Doremalen et al: Aerosol and Surface Stability of SARS-CoV-2 as Compared With SARS-CoV-1, N Engl J Med Online ahead of print, 2020 Mar 17.
    • 5)Garner JS:the Hospital Infection Control Practices Advisory Committee:Guidelines for Isolation Precaution in Hospitals.Am J Infect Control.24:24-31,1996.
    • 6)公益社団法人日本医師会:新型コロナウイルス感染症外来診療ガイド,第1版,2020年4月30日.
    • 7)和田耕治,芳川 徹,黒須一見,手袋の選定基準と使用上の注意点,労働の科学,70巻1号,2015年.
    • 8)公益財団法人日本眼科学会,公益社団法人日本眼科医会:新型コロナウイルス感染症の目に関する情報について(国民の皆様へ),2020年4月1日.
    • 9)国立感染症研究所:新型コロナウイルス感染症に対する感染管理,5月20日版.
    • 10)厚生労働省 啓発資料:「新型コロナウイルス対策 身のまわりを清潔にしましょう。」,2020年3月31日.
    • 11)日本環境感染学会:医療機関における新型コロナウイルス感染症への対応ガイド第3版,2020年5月7日.
    • 12)日本歯科医学会監修:「エビデンスに基づく一般歯科診療における院内感染対策 実践マニュアル 改訂版」,技工物に対する感染対策:56-59,第1版,永末書店,京都、2015年.
    • 13)厚生労働省YouTube:新型コロナウイルス感染症に関するPCR検査のための鼻腔・咽頭拭い液の 採取の歯科医師による実施のための研修動画「新型コロナウイルス感染症に関する基礎知識」,2020年5月20日.
    • 14)新型コロナウイルス感染症対策専⾨家会議:新型コロナウイルス感染症対策の状況分析・提⾔,2020年5⽉4⽇.
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